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天竜林業研究会が農林水産大臣賞を受賞しました。
〜持続可能な林業の礎を築くために〜
受賞インタビュー

2023年3月2日、全国林業グループコンクールにて、天竜林業研究会が農林水産大臣賞を受賞し、全国に888ある林業関連団体の頂点に輝きました。今回、受賞の舞台裏や取り組みについて、天竜林業研究会会長の鈴木健太さんにお話を伺いました。

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Q1)まず最初に、天竜林業研究会として全国林業グループコンクールで発表した内容について教えてください。

天竜林業研究会は、環境を守る林業の証として、FSC認証が大切だと考えています。次世代に繋げていく持続可能な林業を実現するために、FSC認証の3つの視点、環境、社会、経済に沿って活動していることを発表しました。

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受賞時の様子

​静岡県庁への報告会の様子

Q2)環境面においてはどのような取り組みを行っていますか?

かれこれ15年前になりますが、天竜林業研究会メンバーの森からFSC認証を取得していこうという取り組みがスタートしました。ですがそれだけでは森林の規模が足りず、スケールメリットが乏しいということで、森林組合や浜松市にも働きかけを行いました。地域で一丸となってFSC認証取得に向けての気運が高まり、2010年3月に認証に漕ぎつけました。現在では約50,000haがFSC認証林として認められており、これは市町村取得面積日本一です。実は今見ていただいてる森は、認証に向けての準備段階で、最初に模擬審査をした森です。どんなことを言われるかドキドキしたのですが、「この森なら大丈夫」とお墨付きをいただけたことで、自分たちがやってきたことは間違っていなかったと安心しましたし、自分たちの仕事が環境に貢献していることがわかり自信になった記憶があります。

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FSC認証を受けた森林
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FSCの最初の模擬審査を​した際の森

Q3)FSC認証を取得後、どのような動きになったのですか?

 

これからこのFSC認証をどう活用していこうかと模索が始まりました。もっと認証材が使われるよう認知度を向上させていかねば、という話し合いの最中、オリンピック競技場を建設するために認証材の需要が高まっているという話がありました。その流れから浜松市の木材が有明体操競技場の建設に使われる運びとなったのです。この有明体操競技場はウッドデザイン賞を受賞しており、認証材の提供という部分で自分たちが関われたことに誇らしい気持ちがあります。

今回の受賞に際して審査員の方からは、「今後海外に向けての木材出荷などを見据えると、FSC認証の価値は高い」ということも言われました。いずれは海外に向けて木材出荷の道筋が見えてくることを期待しています。

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天竜林業研究会会長の鈴木健太さん

Q4)社会面ではどのような普及啓発活動を行っていますか?

 

大学生や一般の方々に対して森林環境教育を目的とした林業講座を行なっています。実際に山に来てもらったり、最近ではオンラインを活用して山と教室を繋いでいます。

一例として、2020年から静岡文化芸術大学の学生さんを対象に、自伐林家と製材会社の会員が「林業と木材」という講義を行なっています。生徒たちからは「木を使って森林のサイクルを循環させていくことが大事だと学んだ」などの感想が寄せられました。

子ども向けには森林環境教育プログラム『LEAF』を活用して、年に2回のワークショップを企画しています。キャンプ場をメイン会場として、フィールドトリップに出かけたり、葉っぱや枝を使って絵を描くことで森の植物を知る体験、森の木を伐ることでどんな影響が出るか考えるディスカッションなど、様々なプログラムを体験できる場を提供しています。ワークショップでの体験を通して子どもたちが感じたことや疑問に思ったことを、子どもたち自らが思考を深めて気づきが生まれるように導いていくことを目的としています。

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大径木の年輪を指差しながら

Q5)林業講座ではどのようなことを伝えているのですか?

 

森林のサイクルの話や山が持つ役割の話、どういう道具を使ってどのように木を伐って倒すかという具体的な作業の話、木材の使い道の話などもします。林業にまつわる話を幅広く総合的に伝えるようにしています。

2021年には社会人向けの林業インターンシップを実施しました。現場での作業体験や就職相談会などを行い、浜松市内在住の3名中2名の就労をサポートすることができました。

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​林業講座が行われる森

Q6)経済面ではどのような研究や取り組みがありますか?

現在は森林経営の研究を行っています。造林コストについて、過去の資料を参考に現在の単価で再計算し、その見直しを図っています。例えばスギ造林の1年目の生産コストは、30年前に比べて約1.7倍になっています。しかし、かかった経費に関係なく木材価格は市場で決められるため、今の価格では山主に還元される金額は決して多くはないのが実情です。継続的に造林コストについての検証を重ね、改善を図っていきたいと考えています。その一助として、会員の所有する山林見学会を行い、林家独自の工夫を学び合っています。

また、木材だけでなく林産物なども利用して、山全体として経営を成り立たせることにチャレンジしています。医薬品の調査や研究用として、ヒノキの花粉を集めるため、雄花のついたヒノキの枝を出荷しています。他にもフラワーショップの店主を講師に迎えて、リースやアレンジメントの材料になる植物の出荷調整の勉強会を行なったりもしました。

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山全体としての経営を成り立たせるために

Q7)天竜林業研究会として今年どんな年にしていきたいですか?

今までの活動は継続しつつ、個人的には研究を深めていきたいと思っています。具体的には、コストの話を推し進めていくことと、林産物の活用の幅を広げていきたいです。

天竜林業研究会は昭和59年に発足し、元々は林家の情報交換や林業技術、林業経営の研究を主とした集まりでした。ここ10年くらいでメンバーが多様化し、林家だけでなく、林業従事者や製材業者、天竜出身の写真家など多彩なメンバーがいます。しかし、自伐林家では自分より年下の人がいなかったりと、今後の人材の先細りが課題だと感じています。

新しい人材の獲得や別団体とのコラボなどで風通しを良くして、新たなアイデアや意見を取り入れて、輪を広げる動きを作っていきたいです。自伐林家、これから木を使う人たち、天竜材を使う建築家、森や山をコンテンツとして活かしていきたい人たち、山を相続した人たちなど、さまざま人たちがそれぞれの視点で山を捉えて、その魅力を再発見、再定義できるような場作りやきっかけ作りになるようなことをしていきたいですね。

今後は研究を深めていきたい

Q8)天竜林業研究会として、今後についても教えてください。

 

認証材の選択が森を守る一環となることを広く知ってもらい、認証材の認知度向上と利用促進に取り組んでいきます。過去の森林環境教育の経験を活かして、企業の新人研修や、森林ガイドツアーなど、森林サービス産業への展開を目指しています。春から夏にかけての時期に活用できる林産物が少ないため、1年を通して林産物が利用できるように経営の軸を増やしていく方針です。

天竜林業研究会会長の鈴木健太さんは最後に、「私たちの取り組みは持続可能な未来のための一歩であり、この受賞はその成果を称えていただいたものです。これからも地域と協力し、環境、社会、経済の三位一体で林業を発展させていきます。」と語りました。

今後の天竜林業研究会の活動に、ますます注目していきたいと思います。

私たちの取り組みは持続可能な未来のための一歩

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